はじめての四国八十八ヶ所霊場めぐり ~ “修行の道場” 高知編 2日目
高知県2日目 | 2016年9月19日 |
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道の駅日和佐で朝を迎えました。昨夜からテントに降りつけていた雨も、すっかり上がっています。台風16号が来るまでのこの晴れ間に、次の札所である室戸岬の最御崎寺にしっかりと歩を進めておきたいところです。
しかし、あれですねぇ。テント越しではあるけれど、この地に身体を横たえて寝ることで、この先の漠然とした不安が消えるような感じがします。浮足立った自分を落ち着かせるような、そんな働きがあるのかもしれません。
瑜祇塔も存在感あります。
前回の徳島編は、この停留所でバスに乗るところで終わりでした。
日和佐城が日の出によって、幻想的な姿になりました。
テントをたたんで、薬王寺の参拝に向かうとしましょう。
薬王寺の前を通る国道55号線は、次の最御崎寺にもつながっています。
参拝者の多い薬王寺ですが、朝はやはり静か。
高知編が始まる前に、徳島編での経験を活かして100均で“あるもの”を調達していました。
そうです、参拝グッズをまとめて収納するケースです。お寺の境内で個々に取り出すよりも、時間を短縮できるはずです。(藤井寺で出会った方に教わりました。)
ちなみに、頭陀袋(さんや袋)という専用ショルダーバッグもあります。お遍路さんが使っているのをよく見かけましたが、両手が自由になるので使い勝手が良さそうです。
瑜祇塔の中には入れませんでしたが、ここからの景色が良かったです。
日和佐城や日和佐湾も望めます。前回、薬王寺ではすでに納経帳に御朱印をもらっていますので、参拝を終えたら室戸に向かいます。
第24番札所 最御崎寺
Googleマップでは77kmと表示されます。自転車なので驚く距離ではありませんが、歩きならこの区間だけで連休の半分が終わっちゃいます。
立ち止まって写真を撮る時間も入れると、そうそうのんびりしてもいられません。国道は山間部を通ります。
歩き遍路の人はこの区間で、何度か宿をとらないといけないでしょうね。歩き遍路もなかなかお金がかかりますね。
2009年放送のNHK朝の連続テレビ小説『ウェルかめ』は、この辺りが舞台だったようです。
牟岐町に入ってしばらくすると、自販機密集スポットが見えてきました。
歩き遍路にとってはうれしいポイントです。今流行りのレトロ自販機はありませんでした。
しいて言えば、このお菓子の筐体が珍しいかも。飲み物を買おうとしたら、かわいい先客がいました。
ここの脇にパーキングスペースがあって、トラックが1台停まって休憩していました。
コカ・コーラとダイドーの自販機がセットで並んでいることが多いと思います。
トンネルを抜けてからは、再び海が見える様になってきました。
天気雨のようなものが降ってきたので、JR浅川駅近くのベンチで休憩。雨はすぐに止んだのですが、僕ははっとしました。少しひんやりとしていたのです。季節の変わり目を肌で感じました。
バッティングをするには、併設の喫茶でコインを買わなければいけないようです。
施設内には卓球台と、バッティングマシーンが数台。祝日(敬老の日)だというのに、閑散としています。というか、僕以外誰もいません。往時は若者たちでにぎわったのでしょうか。
僕だけのために稼働するバッティングマシーンに申し訳なくなってきました。油も結構売っていますし、そろそろ出発しなければ。まだ高知県に入ってすらいませんしね。
一か月前、徳島の6日目に『山茶花』で同泊した3人組お遍路さんを思い出します。おそらくここも通ったでしょう。
あの3人はもう結願したのだろうかと。あのまま続けていたならば、今月頭くらいには結願しているはずです。
お遍路はそれぞれのペースで進めるものなので、長い旅路の中で追い越したり見送ったりという別れがあります。僕も、前回徳島を離れたあと、「今ごろどのあたりだろう」と出会った人に思いを馳せることが多々ありました。だから、あの時に連絡先を交換しておけばよかったと少し後悔しています。
遍路道で走行中の電車が一番近くに見える場所かもしれません。ちなみにこの路線は、阿波室戸シーサイドラインと呼ばれているらしいです。
道の駅 宍喰温泉に到着。ここで昼休憩をはさみます。最御崎寺まで50kmを切っています。納経所が空いている時間は17時までですので、単純計算で、このあとの5時間を時速10kmで進めばいいわけです。どう考えても楽勝です。
すぎのこ市場という産直市のベンチに座って休んでいると、還暦ぐらいの男性が話しかけてきました。男性は歩き遍路で、福岡から来ているとおっしゃったと記憶しています。
ここら辺りの名産であるきゅうりを使ったアイスを、二人で食べながらいろいろ話しました。
話し終わったあと、男性は「あなたと喋れてよかった」と言ってくれました。薬王寺からはもう30kmは離れていて、その間、特に目ぼしいスポットもなかった気がします。とりわけ歩きでは、孤独に感じる遍路道だったかもしれません。
それだけに、本音が出たのだろうと思います。高知県に入る前から、『修行の道場』と呼ばれるゆえんを、歩き遍路の人は味わうのでしょう。対して僕は自転車、歩きの時と比べて“考えてない”かもしれません。
そして、ここでようやく高知県に踏み込みました。東洋町です。
サーファーが散見されます。約1kmに渡って広がるビーチは、確かにきれいです。
海岸段丘が登場するのもこの辺りからです。進めども進めども、海岸線ぎりぎりに迫る段丘崖が続きます。
息を吞むような自然の造形に目を奪われているうちに、これまた驚きのスポットに差し掛かりました。
なんでも、丸い石ばかりゴロゴロしているというのです。そんなアホなことあるかいなと、国道から身を乗り出して海岸に目を落とすとびっくり。
これが不思議なもので、丸い石はこの場所だけ。少し前でも少し先でもダメなのです。荒波に削られた石がたまりやすい、選ばれた場所といったところか。
ほどなくして高知2つ目の自治体、室戸市へ。そこにはハイビスカスの咲き誇る休憩所がありました。
お菓子の缶々がベンチの中央に置かれています。ありがたく頂戴します。カパ…
ひでえ奴もいるもんだな。気を取り直して進みます。佐喜浜という地区にて、たこ焼き屋発見。
実は高知ではたこ焼き屋を見つけたら立ち寄ることにしているのです。「ぺーたこ焼」というのが気になったので注文。看板には『たこ焼を平べったくたまごと焼きました』とあります。若いお母さんが5分ぐらいでササッと作ってくれました。
中はトロトロ、うまくないわけがありません。素敵なお店です。室戸まで自転車で行ってきたという高校生コンビと雑談。
さて曇天の中、先を急ぎます。いつまでも漕いでいられるような海岸沿いの道を、巡礼者に身をやつしながら通り抜けて行く。ずっと続いてほしい、なんともぜいたくな時間です。
時刻は15時ちょうど。しかし、すでに最御崎寺兼今夜の宿まで15kmの所まで来ています。幸いまだ天気がもっています。歩き遍路の人にうしろから挨拶すると、メチャメチャ辛そうに返事してくれました。
歩き遍路の人を、この一本道で何人も何十人も抜き去ってきました。そこには少しの罪悪感と、少しの後悔を感じます。なぜかと言いますと、僕は彼らに比べたら確実に楽をしているから。歩きの人もいれば車遍路の人もいて、それぞれが自分の目標のためにやっているので、全く比較することではないんですけどね。
かの有名な室戸の大師像が見えてきました。
寺でもないところで大師像を見るのは新鮮です。大師像を横目で見ながら300mほど進むと、弘法大師が悟りを開いたという洞窟『御厨人窟』があります。
当時青年だった弘法大師がこの洞窟に居住していたようで、中から見える風景は空と海…。もうおわかりですね、ここが法名“空海”の由来となった場所ということを。
ついに室戸岬に到着。室戸岬のシンボル的な中岡慎太郎像。坂本龍馬とともに暗殺された人物としても有名ですね。
高知市・桂浜にある坂本龍馬像と向き合っているという噂を僕は聞いたことありましたが、そうではないようです。少なくとも中岡さんの視線の先にあるのは、西の桂浜ではなく南の太平洋です。
あとは最御崎寺へのラストスパート!と思った瞬間、戦意喪失です。あんな上に高架橋が見えるから。
県道203号室戸公園線、別名室戸スカイライン。最後の最後で、ヘアピンカーブを擁する1.2kmとは。おそらくアレも登るんでしょう。おまけに、いよいよ雨も落ちてきました。
自転車はこれがあるんだった。薬王寺を出てからほぼ平坦な道しかなかったので忘れていました。明日の下りは楽だから、と自分を励まして登ります。
この海岸段丘を形成した地球に「もう~、地殻変動活発過ぎ~!」と言いたくなるのは僕だけじゃないはず。
16:30、室戸岬・最御崎寺へんろセンターに到着。最御崎寺の宿坊です。いったんここにチャリを置かせてもらい、急いで参拝しに行きます。
第17番札所・井戸寺で近所のおばあちゃんにもらった、メガネ柄の巾着袋です。これに納経帳や100均ケースを入れています。
二十四番 最御崎寺! pic.twitter.com/tuGBhPfnTw
— ちょうちょう (@icedivider) 2016年9月19日
最御崎寺は『東寺』と呼ばれています。何に対して東かというと、第26番札所の金剛頂寺です。あちらは『西寺』。
『鐘石』の説明書きには<斑れい岩で、小石で叩くと鐘のように音を発し、この響きは冥土まで届くと言われ、俗に鐘石と呼ばれている>とあります。僕もやってみましたが、雨で濡れていたからなのか、「チュン!」と変な音がしました。
カメラも不調です。
ちっちゃい顔がたくさんあってゾワッとする。
小坊主がいい顔してます。出会ったなかで一番かも。かなり本降りになってきました。台風16号のエリアに入ったか。17時ぎりぎりに納経所に寄れたので、宿坊に戻ります。
自転車を玄関の中に入れさせてもらいました。今日は団体さんが来ているようです。僕と同時くらいにチェックインした歩き遍路の方も一人いました。テントなども携帯してるようで、荷物の量が尋常じゃない。全然関係がないですが、女将さん(?)がジュディ・オングに似ています。いや、阿木燿子かな。どっちでもいいか。
お守りや巡拝用品など、ここで整えることができるほど充実しています。
3人部屋のようです。もちろん相部屋ではありません。まずはコンセントを探して充電。
部屋に洗面所やトイレが付いています。設備で不満を言うとすれば、スマホに電波がほとんど入らないことだけ。(スマホによると思いますが、僕はドコモ系mvno回線を使っています)
窓際に行けばたまに電波を拾うレベルです。
お風呂と洗濯は、別棟でという感じです。不自由もなく快適ですが、一応宿坊なので“ゲームコーナー”は無いみたい。ビールやチューハイの自販機はありました。
1階の食堂に行くとすでに食事を終えかけの団体さんがいました。どうやらバスで区切り打ちしているそうです。
お風呂では団体と歩き遍路の方と会話。歩き遍路の方をKさんとしましょう。勤続25年の会社を辞め、家族のいる大分から1人で遍路に来ているそうです。おそらく僕は、遍路道でKさんに挨拶をしたかと思いますが、グロッキーだったので覚えていないとのこと。
そしてやはり台風が気になるよう。あとで女将さんに掛け合って、台風が一段落するまで滞在させてもらえないかを聞いてくれるとのことです。
先ほども言いましたように、自転車遍路は歩き遍路に比べて楽です。そこに少しばかりの悔しさを感じるのは、『辛そうな人ほど輝いて見える』からです。僕は『春夏秋冬の連休を使って四国霊場巡りをする』ことをテーマに今回やっていますが、もし長期の休暇を取れるなら、Kさんのように“完全歩き遍路”をやりたいです。
仏教には『十善戒』というものがあります。“守るべき10個のこと”みたいなもので、お遍路中はそれ順守するという人も中にはいるようです。Kさんがまさにそうで、肉や魚などを食べない『不殺生』を貫いています。夕食に出てきたカツオのたたきもよけたとのこと。とても真似できない。(なお、宿坊に置いても普通に肉や魚は出てきてます。お遍路中に『十善戒』を行うかどうかは個人の自由です。)
お遍路から戻ったら、一緒に肉を食べると子供と約束しているとKさんは言います。いろんな思いを抱えながら、それぞれのお遍路は続くのです。