ふと、ゴリのこと | ジジイの氷割り

ふと、ゴリのこと

 2017/12/28

ふと、高校時代の友達のゴリへしたイタズラの事を思い出しました。まあ、友達ってわけでもないですけど。ゴリは僕と同じバドミントン部だった奴で、歯並びガタガタで、図々しくて、部屋が汚くて、学校さぼってゲーセン行くほどクズで、かといってヤンキーのようでもなく、自らの母さんがブスである事を売りにしてるとんでもない奴なんです。


ですから、「おまえの母さんブスだよな」と言うととても喜びます。これは部のお決まりのいじりみたいなもので、「○○(ゴリの母さんの名前)の子!」と罵ったりもしました。すると、「母さんの悪口は言ってもいいけど俺の悪口は言うな!」とニヤニヤしながら怒ります。友達の母さんを「ブス」とか「罵る」とか言ってる僕らの道徳観はいったん棚に上げてください。

 

さて先述のとおり、こいつは部屋が超汚い事でも有名です。食べ物や飲み物でベットベトになったCDや、鼻をかんだティッシュが捨てられずに散乱しています。飲み残しのペットボトルが数か月放置されているなんてザラです。何度この部屋に入っても、汚すぎて笑ってしまいます。初めて入った人間の第一声が「なんでこんなに汚いの?」は鉄板です。

 

私生活だけならまだしも、こいつは学生生活も破綻しています。一時限目は必ずと言っていいほど遅刻し、昼過ぎまで居眠りをしていたかと思えば、まれにフィットネス感覚で部活に顔を出します。完全にナメてます。そして放課後は毎日ゲーセンに寄るのがお決まりのコースです。対戦型格闘ゲームが好きみたいです。

 

それだけならいいのです。ですが、僕には許せないことがありました。それは、断りもせず人の飲み物を勝手に飲む習性です。ペットボトルの飲み物です。ろくに動きもしないくせに、すぐに喉が乾いたーだのほざいて勝手にグビグビ。むしろ「どうだ、俺はお前の飲み物を飲んでるんだぞ、悔しいだろう」という、僕の反応を見て楽しんでいるような顔にも見えました。

 

ある日ゴリと区の体育館にバドミントンの練習をしに行くことになりました。僕はゴリの習性をイヤというほど知っていたので、ゴリを懲らしめるためにある作戦に出ました。それはダミーの飲み物を仕込むというもの。飲み終わった後の空の2Lペットボトルに、煮出した自家製ウーロン茶を入れ、それに大量の食塩を溶かしたものを持って行きました。

 

僕はゴリと一緒に体育館に入って、さりげなくペットボトルを配置して見て見ぬふりをしていました。ちょっと飲んだかのように減らしておくなど、無駄にリアルを追及することも忘れていません。僕は準備運動をしながら、罠にかかるのを今か今かと待ちました。

 

案の定、ゴリはそのペットボトルを手に取って口を付けたではありませんか。僕はバーカバーカと思いながら、こみ上げる嘲笑をこらえて、それを横目で見ていました。

 

何も知らないゴリは、塩ウーロン入りのペットボトルを勢い良く傾けました。飲む瞬間、目が合いました。こちらを見る目が、ちょっとだけ悲しみを帯びていたような気がしました。無理もありません。想像した味とはおよそかけ離れたものが流れ込んできた訳ですから。ゴリの口元の筋肉は完全にゆるみ、塩ウーロンがだらしなくこぼれ落ちました。

 

僕の顔を見て、ゴリは察したのでしょう。「なんだよこれ」と問い詰めてきました。ゴリが勝手に飲んだのですから、僕が怒りを買う理由はさらさらありませんが、こいつはバカだから殴りかかって来かねません。距離をとって安全な間合いを確保したとき、僕は「勝った」と思いました。もう練習なんてどうでもよかった。

 

また別の日、同じバドミントン部のイケダという奴を交え、3人でカラオケに行ったときのこと。ゴリが気持ちよく歌ってる隙に、ゴリの靴の中に奴が飲んでいたカルピスソーダの氷を投入して逃げ帰った事があります。

 

これに関しては確実に僕らに非がありますが、殴られるのはやっぱり嫌なので、気付かれた瞬間にそれはもう距離をとりました。怒り心頭のゴリが追いかけて来ましたが、50m位の距離を保ったまま2kmくらい移動したとき、ゴリはいつの間にか姿を消しました。これらの光景を思い出す度、今でも笑いを禁じ得ません。

 

そんなゴリも、僕らと一緒に無事に高校を卒業することが出来ました。

 

それから時は流れて、ゴリに会うこともなくなって5年ほどたったある日のこと。久しぶりの帰省で、たまたまその母校近くのゲーセンに寄りました。すると、高校時代と同じ感じでゲーム機に向かっているゴリがいたのです。アレ、時でも戻ったかと思いましたが、そんなわけはありません。さすがの僕でもこいつはここまでダメ人間なのかと驚愕しました。

 

同じ部活で汗を流した者同士なら昔話なんかで旧交を温めるところでしょうが、その時ばかりは声を掛けずに帰りました。おそらく働いてもいないでしょう。話してないんで知らないですけど。

 

あれからさらに多くの時が流れました。ああ、今何してんのかな。ふと思い出した、そんな話。

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