はじめての四国八十八ヶ所霊場めぐり ~ “発心の道場” 徳島編 3日目
徳島県3日目 | 2016年8月8日 |
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一本杉庵の大師像(藤井寺→焼山寺)
『鴨の湯いやしの舎』にて、3日目の朝を迎えました。ゆうべは本当に静かで、眠りを妨げるものは何もありませんでした。しかし、体は疲れているのに、夜中に幾度となく目が覚めました。もしかすると、そのまどろみも夢の一部だったのかもしれません。この静かな熱狂が精神状態に影響したことは間違いありません。着ていたリバーシブルのTシャツを裏返したような、今朝はそんな目覚めです。
鴨の湯の善根宿のトイレ
大げさに言えば「そういえば昔、東京で働いていたなぁ」という心境です。なんてなことをトイレの前で語ってますけどね。まあ、そんなことはさておき、今日の目標はただひとつ!
『焼山寺を越えること』
ほぼ日の出と同じ5:30に出発します。日の出ている時間帯を有効に使いたいですし、本当に6時間で焼山寺に着ける保証なんて無いのでね。
藤井寺までは約2km
藤井寺までのおだやかな散歩は30分ほどで終わります。ここからは修行の道です。
第12番札所 焼山寺
藤井寺入口の案内図
焼山寺道と呼ばれるこの道は、四国全体の中でもトップクラスの難所。逆にここを乗り越えれば、この先越えられないところはないということです!この看板によると、焼山寺までは12.3km。東京で言えば、新宿の都庁からお台場までとほぼ同じです。それを登りながらというのですから、これが難所でないと困ります。
あの尾根を越えればいいという単純な話
昨日に引き続いて、本堂で今日の道中の安全を祈願しておこう。
焼山寺道入口を6時にスタート
本堂脇の道を通って、6時間の行程のスタートです。予定なら昼には着きますね。マムシ注意の看板あり。
藤井寺の面白いのが、奥の院手前までの参道に八十八の寺の祠がギュッと集まっているところです。
これは三番札所金泉寺の祠
一日で結願できます。そうそう、かつてこの辺りで空海が修行していたと、昨日話したおやじさんが言っていました。
山中の枝に“言葉”が吊るされている
「最高の幸せと問えば、今お遍路の自分なり」
確かにこうしてお遍路回りができていることが幸せなのかもしれません。
今日も暑くなりそうだ
道の向こうから歩いてきたおじさん2人組とあいさつをします。「このまま越えるの?」と聞かれ、それ以外に何があるのだろうと思いながら、「はい」と返事をしました。
この時間に逆からやってきたということは、焼山寺を何時に出たのだろう…。とも思いましたが、よく考えると朝の散歩だったのでしょう。軽装でしたし。
上り坂が続く
軽登山と思えばなんてことないかもしれません。高尾山以上、富士山未満てとこでしょうか。範囲広くてすみません。
吉野川市の町並み
こういう開けたところにベンチがあって、休憩できるようになっています。
高野山高校 宗教科ってすごいですね
まだ行程の4分の1くらいですが、すでに飲み物を半分くらい消費しました。水分摂りたいっていうよりは、バッグの重さを何とかしたい!っていう切実な気持ちです。今回モバイルバッテリーを3つ持ってきており、合計で800gあります。過ぎたるはなんちゃらという言葉があるように、こんなに要らないと感じてます。1つだけを残して、あとは奉納って書いて藤井寺の納経所に置いてこようかと思ったほどです。
これのせいであきらめた水で、生死が別れるなんて嫌だなあ。
長戸庵で10分の休憩
ただの“休憩ポイント”という感じの長戸庵。中には入れません。
角度が付いて、吉野川もはっきり確認できる
1時間半でこんな絶景になります。小さな1歩1歩でここまで来たと思うと、意外と僕らはいろんなことができるのではと感じます。
分岐
右に行けば『樋山地 石鎚山 お鎖』とあります。こう言っては何ですが、僕の人生でここを右に曲がることは一度もなさそうです。
柳水庵(りゅうすいあん)まで1.8km!
柳水庵は、焼山寺道のほぼ中間地点です。暑さとの戦いは続いていますが、体力はまだまだ大丈夫です。
きれいな一本道を過ぎたら、下の方に小屋が見えてきた
ここは柳水庵ではないようです。
柳水庵手前の小屋
入口に近づいてみると、“ハチに注意”と警告がありました。巣でもあるのかなと思って中をのぞくと、ハチは確認できませんでした。コオロギがびっしりと壁に張り付いていました。見なきゃよかった。
英語バージョンも書いてあげた方がいいかもしれない
さらに下っていくと湧き水スポットがあります。
湧き水
そして、柳水庵に到着。
柳水庵
現在は無人となっている模様。木の杭に『木造弘法大師坐像 壱軀』と書かれています。さらに下の方に休憩所があるとのこと。
柳水庵近くの休憩所
こちらは宿泊OKらしいです。中をのぞくととてもきれいで、座布団が用意されているのが見えました。
整備された道を右へ
楽な下りもここまで、再び登ります。上りがツラくなるから下らなくていいよ!と言いたくなりますが、自然のことわりなのでありがたく受け入れるほかありません。
お遍路さん向けの“言葉”を頼りに歩く
この辺りで「あれ、道を間違えたかな?」と、ちょっと迷う場所があります。それらしい方を選んでいるつもりですが、心なしか道端の雑草も茂ってきたようにも感じます。あと、今日一人もお遍路仲間を見かけていないというのも不安に拍車をかけています。
枝打ちの行き届いた杉林だ
不安ですが『もう半分は過ぎた!』という自信というか、その事実を心の支えにして進みます。すると突然、山門のような場所が現れます。一本杉庵に到着です。
一本杉庵山門
むむっ、階段の上におわしますのは大師様!
一本杉庵の大師像
まるで「よく頑張りました」と言ってくれているかのようです。(脳内大師)
巨大な一本杉の前だと、さらに威厳が漂う
『左右内の一本スギ』との表記あり。ちなみに、僕はこの大師像の存在を知らなかったので、階段の下から見上げた時は、とにかくでかくて神々しく感じました。4mくらいの高さはあると思います。
杉を囲むように広場になっている
車で巡拝しているお遍路さんはここを通ることはありません。大師像が歩き遍路の人々をこうして迎え続けてきたと思うと、この場所には何かパワーがありそうな気がしてなりません。
昨日、鴨島の街で買っておいたおにぎりを食べました。ちなみに、ここの庵もやはり無人。今日はこのままたたずんでいても、誰も追い抜いて行かない気がします。
人の気配がしない。追ってくるのは夕暮れと暗闇…。そう考えると、なんだか早々にここを立ち去りたくなるのです。
あと3kmちょっとで焼山寺のはず
久しぶりの舗装路で安堵
焼山寺まで6kmと看板に表示されていますが、車で向かう場合のキロ数のようです。
澄んだ小川を渡る
『へんろころがし6/6』と記載があります。
道しるべの表記に文句を言いたくなる
お大師さん!「よく頑張りました」じゃないんですか!?まだひと山あるというのですか…。もうここまで来ると、“ころがされてなんぼ”という気持ちになってきます。
意を決して、最後と思われるへんろころがしを登ります。そして、地図にも無いような小さな薬師如来の祠の前を通り過ぎ、出てきた表示はあと『1.0km』!
石が見える
しばらくして、道端のお地蔵さんらしき物体に近づくと、それは焼山寺の参道でした。
焼山寺参道の玉垣
山の上とは思えない立派な玉垣(寄付した人の名前とかが書いてある石の柵)です。さらに山門にたどり着くまで、さまざまな仏像が撮ってくれと言わんばかりに鎮座ましましていました。
コンプするのが大変だった(写真は一部)
鎮座ましまし過ぎ~!焼山寺ともなると一目置かれているでしょうから、さぞかし寄付の類も多いんでしょうね。僕の好みはやっぱり、弥勒菩薩の『はんかしいタイプ』です。
焼山寺山門下
十二番 焼山寺! pic.twitter.com/LDK6WE4nhR
— ちょうちょう (@icedivider) 2016年8月8日
山門をくぐると個人参拝者の姿が見えます。ほとんどが車で乗り付けた方々のようですが、金剛杖とリュックを携えた歩き遍路と思われる方も。
おそらくは僕が数時間前に通り過ぎた、柳水庵の無料休憩所に泊まっていたと考えるのが自然でしょう。それか逆打ちの方か。
焼山寺境内
ノスタルジックだけど、ここは山の上
現在12時を過ぎたあたり。本日泊まりたい『なべいわ荘』に電話をしてみます。1時間ちょっとで着く予定です。
左から来たので、右へ
電話口のおかみさんらしい人に本日泊まりたい旨を告げると、「大丈夫ですけど…」と何か言いたげ。ちょっと突然すぎるかな思っていると、「今の時間ですと、体力に余裕があれば植村旅館さん行けるかも」とのこと。
納経所でもらった案内
確かになべいわ荘は一番近いようで、14時前には着いてしまいそうです。ですが、そんなに先を急いでいないですし、“旅館”に泊まる身分でもないです。今は“荘”ぐらいがちょうどいい。椿山荘みたいなところだったらどうしよう。
下り坂ばかりでうれしい
ホントの所は、『今日は宿に泊まると決めていたので、できるだけゆっくりしたいから』が正解でした。でも、「数時間後に行きます」ってのも、困った客かもしれません。
命のおかわりありません
梅干しの無人販売所を発見。食欲をそそる色です。
この近くの民家の軒先で、おじいちゃんが梅の天日干し作業の真っ最中だった
本当は作り手のおじいちゃんに声をかけたかった。けど“梅干しのおこぼれにあずかりたがっているお遍路さん”に見られたくなかった。そんな意識は不要なのに。修行中。
ちなみに量が多いので買わなかった。
杖杉庵
衛門三郎という男と弘法大師が再会したといわれる杖杉庵は、四国八十八箇所霊場番外札所でもある由緒正しい場所です。
赤紫蘇
このへんは梅の産地なのでしょうか。やはり購入するには量が多いので、隣のすだちジュース(100円)をいただきました。すっぱあまい、予想通りの味。
集落らしき場所に下りてきました。ここが『鍋岩地区』のようです。
通り沿いには、昨日おすすめされた『すだち館』も
アスファルトの道と山道の両方を歩いてきましたが、登山靴のような装備は要らないと思います。かえって足が疲れるので、履き慣れた靴でいいでしょう。雨で濡れた道だと、話はまた変わってくるでしょうが。
久しぶりに田んぼを見た
なお、夏なので短パンで歩いていますが、昨日の長距離移動でかなりふくらはぎが日に焼けました。山中を抜けて浴びる、“追い日焼け”がジリジリと痛いです。
なべいわ荘まではもうすぐですが、途中に明日のスタート地点がありました。明日はここから登ります。
13番大日寺への遍路道
やはり山道になるんです。徳島は山道多め、今日は覚えて帰ってください。
少し下ったところになべいわ荘がある
なべいわ荘に到着しました。
なべいわ荘(2食6,500円)
入口で「こんにちは~」と呼びかけると、やさしそうな女将さんが出てきて対応してくれました。急にきてスミマセン!
番犬かな?
今夜は宿泊客が僕しかいないらしく、内湯を沸かしていない。けれどそんな日は、近場の『神山温泉』に連れて行ってくれるサービスがあるらしいのです。
和風の照明がいい感じだ
2階の『すみれ』という部屋に通された
テレビ・クーラー完備の快適な宿です。さっそくお茶菓子をもぐもぐ。
することがないって最高
アブラゼミが飽きることなく鳴いています。神山温泉が待っていますが、ひとまず汗を流させていただきました。
洗濯機・乾燥機の利用は100円とかだった気がします
2日連続で洗濯ができている。
この日は天皇陛下のお気持ち表明の日だった
16時になると部屋をノックする音がして、なべいわ荘のご主人と初対面。思ってたのと違う感じでしたが、しゃべり始めると止まらない人だ。
ご主人の運転する車で神山温泉へ。鍋岩集落から神山温泉まで、2人だけのうねうね道ドライブ。「この車ブレーキないんですか?」って聞きたくなるくらいの、なかなかの運転をなさるので肝を冷やしました。
15分くらいで車は神山温泉『癒しの湯』に到着。券売機で買った券を僕に手渡しながら、「私このまま駐車場で待ってますから入ってきてください」とご主人は言います。待たせるのも悪いなと思ったので、15分ほどで入浴を終えて駐車場に戻りました。
だけど車の中にご主人の姿がない!早かったかもしれないとウロウロしていたら、ご主人がニヤニヤしながら戻ってきました。ヒモのようなものを持ちながら一言。
「神社の杉の太さ調べてましてん、木の太さ測るのが趣味ですねん」
大きい木を見るとついつい測りたくなってしまうようで、近くの神社の杉の木の周囲は何mだと教えてくれました。どうでもいいかなと思いつつ、ツッコミどころ満載のご主人との話は尽きません。「昨日の宿泊客はフランス人」とか「1年くらい前にひとりのお客さんに2トンのお湯を使われて水道料金がすごかった」とか、関西弁で教えてもらいながら宿に戻りました。
客ひとりのために、こんな豪華な料理を作っていただいたと思うと…
16時、食堂にて夕食。この大葉の入ったそうめんは2秒で吸い込みました。いやー、こんな不自由のない旅をしていていいのだろうか。もう少し、大変な目に遭った方がいいんじゃないだろうかと思ってしまいます。ですので、明日は宿はとらない事に決めました!食堂にお遍路ガイドブックがあったので、いくつかお借りして部屋に持ち込みます。
僕のスマホではネットがつながらないので、天気の最新情報はテレビで調べます。しばらくは雨の心配はないようです。それよりも熱中症に注意だそう。
今日の気温
まっかっか!今日の四国はほぼ30℃以上だったようです。
明日の予想気温、37℃て
37℃ってお遍路していい気温ですか?1日目の経験で、『熱帯夜はやばい』ということがわかっていますが、おそらく避けられそうにありません。今夜一日だけは、風邪引くくらいクーラーの恩恵に与ろう。
お遍路ノートに目を通す
今回、寝袋をリュックに詰めてきたのですが、この暑さではどうやら出番はなさそうだ。たとえバス停のベンチで野宿ということになったとしても、蚊除けスプレーと布切れ一枚くらいで事足りそうです。
この3日間で、平地なら1日だいたい30km歩けることがわかりました。ですので明日の宿泊予定地に、30km先の17番札所井戸寺を設定しました。井戸寺の次を目指すと50kmになってしまいます。納経所の時間が7時から17時ときまっているので、あまり無理をしてもしょうがないのです。
お遍路をし始めて、日課にしていることがあります。前日に翌日分の納札に名前と住所を書いておくことと、お遍路さんが書き残したノートを拝見すること。廊下にお遍路ノートが置いてあったので少し読みます。感謝・決意・愚痴などさまざま。
今日は『焼山寺越え』をしたわけですが、実は徳島にはあと二つ難所があるとされています。“一に焼山、二にお鶴、三に太龍”と呼ばれ、徳島遍路ころがし三傑の名を欲しいままにしています。中途半端な場所でストップしてしまうと宿に困るので、明日くらいから行程を調整していく予定です。