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旅に出る人を見送ってきた
13:00 柴又
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葛飾区柴又から江戸川に少し歩くと『矢切の渡し』がある。
こちらも江戸時代から存在し、住民の足として親しまれてきた。矢切とは対岸の千葉県松戸市の地名である。
先述の3原則、
『旅客輸送』
『出発直前の高揚感』
『都心を離れる』
にも当てはまるので調査対象として申し分ない。柴又は都心である、異論は認めない。
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渡し場入り口。誰もいない。普段はわらじ売りのおじさんがいるようだ。
少し待っていると後ろからファミリーがやってきた。
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桟橋で辺りを見回していると、どこからともなく渡し舟が現れた。
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大人2人子供3人を乗せた舟は、船頭さんの操る櫓によってみるみる小さくなった。
そして約10分後戻ってきた。その後も何人か舟に乗っていたが、行っては戻ってくるという具合だった。
向こうに何があるのか知りたくなったので、僕も乗ってみる事にした。片道大人100円、子供50円。
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船頭さんは30年間こうして櫓を握っているとのこと。せっかく二人きりになれたのでいろいろ質問をしてみた。
-ちょっと聞いてもいいですか?
「何なの?取材?名刺をちょうだいよ」
-あ、いや個人的に聞きたいだけで。住民もよく利用するんですか?
「いろいろね」
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-わらじ屋さんはどこにいるんですか?
「暑くて帰った」
-後継の方なんているんですか?
「何でそんな事気になるの?」
完全にハマってない!重い空気を乗せ、舟は松戸側に着岸した。
「降りて見てもらって、しばらくしたらまた出ますから」
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露店があった。僕がこの辺の子供なら毎日遊びに来ていただろう。
舟に戻った時、船頭さんは植物を指をさしながら、一人の若者と話していた。
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松戸を離れると船の上で船頭さんが、「さっきいたでしょ。(あれが後継だよ。)」と話した。
そして、「もうすぐ100円じゃ乗れなくなるよ。」と値上げの意向を教えてくれた。
東京側の岸に船体を寄せ作業していたが、その姿は少し寂しげに見えた。
舟に乗る人に話を聞くことが出来た。
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ボードに行き先を書いてもらった。
女性二人で乗ろうとしている所、地元の老紳士が案内役を買って出たというわけだ。
今度、フランス人6人を案内するという仰天プランも飛び出した。
なるほど、旅行では偶然の出会いというのも楽しいものだ。
浮かれ度 ☆
なお、これらのボードを持ってもらった写真は本人にネット掲載許可を頂いたものであるが、交渉のノウハウを得るまでには時間がかかった。
もちろん中にはバリアーを張った様に拒絶する人もいたが、めげずに試行錯誤しながら撮影に至るまでの流れを組み立ててみた。
「すいませーん、写真撮らしてもらってもいいかなーっ?」といきなり突撃しても「いいともー」とはならないので、まずは「いま○○に乗る人達に聞いているんですけど」と質問・アンケート風で近寄る。
相手が「(本当に個人的な調査なんだー)」と和んできた頃に、ボードを取り出し「これに行き先書いて、それを持ってもらって撮らせて欲しいんです!」と正直に懇願する。
OKならこの時点でネット掲載の可否を尋ねる。相手の顔が曇ったら用意したサングラスを渡すなりして懇願する。
要はひたすら懇願するってこと。だって相手方にはメリット無いんだもの。
この調子で『旅人のオーラ』に引き続き迫っていこう。
では後半戦。
13:30 調布
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東京には空の玄関がいくつかあるが、この調布飛行場は伊豆諸島へ30分以内で行けてしまうコミューター路線の発着場だ。
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調布飛行場の主力旅客機ドルニエ228。味スタ上空を悠々と飛ぶ姿は航空機ファンでなくても見とれてしまう。
運行路線は3つ。
「アクティビティは海全般」新島便。
山からの絶景を楽しみたい神津島便。
年配層から絶対的支持の大島便。
うーん、決めかねるなあ。
ああ、僕は旅行者見に来ただけだった。
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いい仕事してますね。
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飛行機が到着しにわかに混雑する館内。
これから飛行機に乗る人に話を聞くことが出来た。
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彼は一人で新島へ行き、先に着いている会社の人と合流するそうだ。
写真撮ろうとした時、「海の感じ無いですけど」と謙遜してましたがサーフボード似合っておりました。
「新島」の字を迷ってたけど問題なし!
浮かれ度 ☆☆☆☆
14:00 東京駅
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お盆などの帰省シーズンに必ずニュースに登場する新幹線のホーム。
Uターンラッシュともなれば当然のごとく乗車率は100%越えだ。
日本の風物詩と言えるかもしれない。
ドル箱路線である東海道新幹線の起点東京駅なら、多くの旅行者に出会えるかもという目論見である。
しかし思った通りにいかないのが現場というものである。
旅行客というよりビジネスでの利用が多いように思う。
なかなか旅行客に触れ合うチャンスを見つけられない。
いっそ架空の美少女にボードを持たせたCGを作り出した方が簡単なんじゃないかと思うくらいだ。
「二次元なら思い通りに出来るのに」とはこういう事なのか。
まあ美少女である必要はないんだけど。
珍しい団体を見かけたので声を掛けさせていただいた。
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彼らは中央アジアのウズベキスタンから文化交流で日本に来ているようで、他にもアゼルバイジャン・カザフスタン・キルギスなど中央アジアやコーカサス地方の人達が20人位いた。
日本の外務省と行政レベルの交流という事で、京都に「のぞみ」で向かうそうだ。
外務省の人に通訳してもらった。「blog」では伝わらないらしく「like twitter」と言っていた。
浮かれ度 ☆☆
19:30 新宿西口
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新宿西口バスターミナルは、トランクやリュックを携えた人で今夜も賑わっている。
中でも富士山頂を目指す人はひときわ重装備だ。
そして驚いた事に半分以上が外国人なのである。
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しかし中には西友に行くような格好の外国人もいる。富士山を間近で見たいだけとかそんな人なのだろうか。
富士山五合目まで行きながら登山しないなんて、オリンピックで予選を突破しながら棄権するようなものではないか。
そうは言っても楽しみ方は人それぞれ、和気あいあいとした中にも静かな闘志が漂っている。
バスの車体を撮影していると、俺を撮ってくれとiPhoneを差し出す人が。
韓国から富士山初挑戦との事。
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じゃあ次は僕のカメラで撮らせてもらうよ、と訳の分からないギブアンドテイクで一枚撮らせて頂いた。
なんだか外国の人は声を掛けやすい。旅行気分になってくれているからか。
浮かれ度 ☆☆☆
21:00 日本橋
街灯の燈る日本橋に再び戻って来たとき、一人の若者が旅のゴールを迎えていた。
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彼は名古屋(厳密には尾張旭)から東海道を自転車で3日かけ、今まさに着いたところだ。
そして僕は偶然居合わせることが出来た。ああ、思った通りここはチャレンジにおける要所なのだ。
スタートとゴールの違いこそあれ、旅の興奮はひしひしと伝わってくる。
浮かれ度 ☆☆☆☆
結局のところ、「旅オーラ」を探るつもりが「旅行熱」に当てられたようで、各所で行きたい行きたいーとなってしまった。
仕事ばかりしているとどこか遠出したくなるし、旅行から帰ってきたら「やっぱ家が一番」とか言いたくなる。
そしてそのサイクルがみんなずれているから社会が成り立っているのではないだろうか。
さて、今年も富士登山の準備でもしようか。